小川 浩之
経 歴
1992年生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学経済学部を卒業後、株式会社東芝に入社。2020年に東京理科大学工学部建築学科夜間主社会人コースに編入学、広谷研究室で学ぶ。卒業後転職し、現在にかけて建築設計事務所にて勤務。
理科大に入学したきっかけですが、私は新卒で入った企業で経理として数年勤めた後に今の仕事を将来に渡り続けるべきか真剣に考えた時期がありました。27歳にして「13歳のハローワーク」に大量の付箋を貼りつけたり、ヒップホップをほとんど聞いたことがないのにラッパーへの転身を検討したりと迷走したこともあったのですが、そうしたなかで工学と芸術を横断しながら社会を作っていく仕事である建築設計に興味を持ちました。私としては大学で体系的に建築を学びたいと考えたものの、生計を立てながら学ぶ選択肢が少なかった時に以前存在した理科大の夜間コースが復活することを知りこれしかないと入試を受けることを決めました。
入学したものの、これまで全く建築に触れてこなかった上に手先が器用でない私は設計も建築模型作りもなかなかうまくいきませんでした。それでも設計課題を通じて答えのない問いと向き合う時間は、私がかつて学生時代に熱中していた演劇の美術製作と似た難しさと面白さがあり、模型やCGモデルが段々と納得できるものに近付いていく過程は感慨深いものでした。
設計系の学生が大学生活の最後に課される卒業制作は、住宅や図書館といった建築の機能も、それを建てる敷地も何も提示されないなかで自身で立てた問いと与件を解き、建築作品として表現するものです。毎週の研究室活動では社会人の仲間と発表し合い、それを受け止め伸ばしてくださる先生方からフィードバックをいただきます。卒業制作を通じて自身と建築との関わり方を深く見つめ、社会経験を通じて生まれた問いを掘り起こし作品にできたこと、それに対し講評をいただけたことは大学でしか得ることのできない代え難い経験だったように思います。
卒業後、最初に入所した設計事務所では地方駅再開発のプロジェクトを担当し、まちづくりの現場である市役所との毎月の定例会議や分科会に向けて日々デザイン提案を練りましたが、長く勤めるには多くの面で難しい環境で半年ほどで退所することになります。その後しばらくは幅広く業界を知るために色々な設計事務所や工務店でアルバイト・インターンを経て、現在は現代アートの作品空間や施設を扱う設計事務所で日々設計実務に取り組んでいます。実際に建つものを扱うためには法規の知識やディテールの設計をはじめ、身につけなければいけないことが多くあると日々実感しています。
ふと30代にして駆け出しの立場の自身を見つめ直す時もありますが、理科大で先生方からいただいた言葉が私が設計を続ける上で指針となっています。その言葉の一つに「建築は回り道をすることが大切だ」があります。回り道をしていますがいつの日か自身が納得できる建築を形にしたいと思っています。